葬儀にかかった費用がすべて相続税から控除できるわけではありません。中には、葬儀に密接に関連しているように見えても、税法上は控除の対象として認められない費用が存在します。これらの項目を誤って申告に含めてしまうと、後に修正申告が必要になるなど、余計な手間がかかることになります。控除対象外となる代表的な費用を正しく理解しておくことは、スムーズな相続税申告のために不可欠です。まず、最も代表的で間違えやすいのが「香典返し」の費用です。葬儀の際には多くの参列者から香典をいただきますが、その返礼として品物を贈るのが一般的です。しかし、この香典返しの費用は葬儀費用として控除することはできません。なぜなら、香典自体が非課税であり、相続財産には含まれないからです。その非課税の収入に対する返礼費用を、課税対象である相続財産から差し引くことはできない、という考え方に基づいています。次に、墓石や墓地の購入費用、あるいは墓地の永代使用料も控除の対象外です。これらは、亡くなった方の供養のために必要なものですが、税法上は葬儀そのものの費用とは区別されます。墓地や墓石は「祭祀財産」と呼ばれ、相続税が課税されない特別な財産です。その非課税財産を取得するための費用は、課税対象の相続財産から控除することはできないのです。同様に、仏壇や仏具の購入費用も祭祀財産に関連する費用と見なされ、控除対象外となります。また、葬儀が終わった後に行われる法要の費用、例えば初七日や四十九日、一周忌などの法事にかかる費用も控除できません。税法上の葬儀費用とは、あくまで亡くなってから火葬、納骨までの一連の儀式にかかる費用を指し、その後の追善供養は含まれないと定義されています。これらの線引きは複雑に感じるかもしれませんが、正しく区別して申告することが重要です。