祖父が亡くなったのは、蝉時雨が降り注ぐ真夏の日のことだった。告別式を終え、霊柩車に揺られてたどり着いた火葬場は、シンと静まり返っていた。炉の前で最後の別れを告げ、待合室で過ごした一時間半は、現実感のない、まるで映画のワンシーンのような時間だった。やがて収骨の案内があり、親族一同、厳粛な面持ちで収骨室へと向かう。そこに置かれた台の上には、白く清らかな姿となった祖父がいた。あんなに大きかった祖父が、こんなに小さくなってしまった。その事実に胸が締め付けられ、涙がこみ上げてくるのを必死で堪えた。係員の男性が、落ち着いた声で説明を始める。「こちらが足のお骨、こちらが腕のお骨です」。そして、二人一組で箸を使い、お骨を骨壺に納めていくようにと指示があった。父と私がペアになり、震える手で白木の箸を持つ。二人でそっとお骨を挟み、骨壺へと運んだ。カラン、と乾いた音が室内に響く。その音は、祖父の死という抗えない現実を、私の心に深く、静かに刻みつけていった。順番に皆がお骨を拾い、最後に係員の方が一つ、形が特徴的なお骨を指し示した。「これが喉仏です。仏様が座禅を組んでいるように見えることから、そう呼ばれています」。見ると、確かに小さな仏様のような形をしている。父が、一番大きな箸でそのお骨をそっと拾い上げ、骨壺の一番上に置いた。全ての儀式が終わり、父が小さな骨壺を抱きしめた時、私は初めて、祖父が本当に遠い場所へ旅立ってしまったのだと悟った。あの日の静かな午後の光景は、悲しみと共に、生命の尊さを教えてくれた忘れられない記憶として、今も私の心の中にある。